« 『スイッチト・オン・バッハ』ワルター・カーロス | Main | 『展覧会の絵』エマーソン・レイク&パーマー »

August 25, 2005

『月の光~ドビッシーによるメルヘンの世界』冨田勲

USAのRCAレッドシールで1974年に発売された、冨田勲のフル・シンセサイザー・アルバム。この1枚が世界を変えたと言っても過言ではないだろう。

冨田勲については非常に思い入れも多く、実際どう書いたらいいのか判らないぐらいなので、いつも以上にランダムな文章の羅列になるとは思うが、ご勘弁いただきたい。

この『月の光~ドビッシーによるメルヘンの世界』は全編ドビッシーの曲ばかりを、モーグ・シンセサイザーを使ってマルチトラック・レコーダーで録音されたもの。日本のレコード会社に持ち込んだものの、ことごとくネガティブな反応をされて結局USAのRCAと契約したという経緯がある(このあたりは冨田勲著『音の雲』に詳しい)。『Snowflakes Are Dancing』というタイトルで発売したところ、ビルボード誌のクラシックチャート第1位を獲得、日本人として初めてグラミー賞の4部門にノミネートされ、NARM(全米レコード販売者協会)の'74年度最優秀クラシカル・レコードに選ばれた。その後、逆輸入される形で日本で発売されたのがこのアルバムである。

ワルター・カーロスによる『スイッチト・オン・バッハ』が尖って直線的な印象を受けるのに比べ、この『月の光』は色彩感溢れて厚みのあるサウンドを感じさせる。いずれもこれまでにはないものをもった印象の音楽であったが、精緻な手工芸品を思わせるこのサウンドには舌を巻くばかりであった。

なにしろこの当時のシンセサイザーは、単音しか出すことができず、また音をメモリーに記憶するなどという気の利いた芸当のできる機械のある時代ではなかったので、音作りは紙にメモしたパッチ・シートを頼りに再現、1パートを録音しては、またパッチ・シートを頼りにツマミを回したりパッチ・コードを刺したりしないといけない。1曲作るのは大げさではなく気の遠くなるような作業だったのだ。特に自動演奏装置としても、8~16ステップ程度(8~16音符分に近いと解釈してもらっていい)のアナログ・シーケンサーでフレーズを録音したら、またつまみをまわして次の8~16ステップの音符を設定するといった有さまである。まさに家内制手工業的録音風景であったに違いない。

このあたりの録音のノウハウやエッセンスは、かつて『冨田勲の世界』という2枚組のレコードに収録されていた。ラヴェルの「ダフニスとクロエ 第二組曲」より「夜明け」の部分や、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲 第二楽章」より冒頭の部分などの音作りが収録されているという、当時のシンセサイザー少年にとってはまさに涎のでるようなレコードだったのだ。現在では資料的価値しかないと思われているからか、廃盤になったままでCD化されないのはちょっと残念な気がする。 

その後、『展覧会の絵』、『火の鳥』、『惑星』、『蒼き狼の伝説』など、思い出深いアルバムは数多くある。このあたりについてはまた、稿を改めて書きたいものである。

ちなみに一般の人が一番耳にしていた富田勲のシンセサイザーは「ニュース解説」のテーマではなかろうか。短いながらもキャッチーなメロディだった。


月の光
月の光


ロバート・A・モーグ博士を偲んで


|

« 『スイッチト・オン・バッハ』ワルター・カーロス | Main | 『展覧会の絵』エマーソン・レイク&パーマー »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/53033/5638717

Listed below are links to weblogs that reference 『月の光~ドビッシーによるメルヘンの世界』冨田勲:

« 『スイッチト・オン・バッハ』ワルター・カーロス | Main | 『展覧会の絵』エマーソン・レイク&パーマー »